住居者構成 : 一人暮らし
面積 : 61〜70㎡
大人のリノベーション(40歳以上)
元々お住まいだった秀和レジデンスの一室をフルリノベーションされたH様。現在のお部屋からは想像もつきませんが、以前は物が溢れていてとても住みづらかったそうです。築50年だからこそこだわった機能面と、リノベをきっかけに住まいに対する意識が変化した経緯などについて設計を担当した齋藤と供にお話を伺いました。
H様:この家は、築50年で、私が住み始めたのが約20年前。購入した時点で前のオーナーさんがリフォームされていましたが、細かく区切られた間取りや収納がどうにも使いづらくて…。長年住むうちに物が増えてしまったのもあって、引っ越しを考えるようになりました。とはいえ、この部屋は窓が大きくて眺望が良いし、駅から近くて住環境も気に入っているので「古いマンションでもリノベーションできるかな?」と調べていたら「秀和マニア」のサイトを見つけました。秀和をお好きな方がやっているなら心強いなと思い、サイトを見たり『中古を買って、リノベーション。』を読んだりしているうちに2〜3年が経って(笑)。
ゆっくりと探していらしたんですね。
▷無印の棚の奥行きに合わせて造作したベッドサイドのカウンターは、ドレッサーとして活用しています。ベッドはシモンズ製。全体的にゆったりとした作りの家具を選ばれています。
H様:リノベーションをすることは10年くらい考えていました。でも、土日が休みではないので説明会に行くタイミングがなかったり、引っ越しが面倒に思えたりで、なかなか行動に移せなかったんです。それが、ちょうど一年前の夏に偶然まとまった休暇が取れたので、メールをお送りしたら、すぐに「一度事務所にいらしてお話をしませんか?」とお返事をくださいました。そのご返信をくださったのが、設計を担当してくださった齋藤さんです。
その後もトントン拍子に進みましたか?
H様:感覚としては、流れに乗って自然と進めていくうちに「こんなに素敵な家ができた!」というか。齋藤さんにうまくリードしてもらいながらながら、計画を立てて要所要所でアドバイスもしてくださったので、それに乗って進めていきました。一人暮らしなので、最初は相談する相手がいないのが少し不安でしたが、仮住まいを決めるタイミングや、欲しいテイストの家具の情報など、なんでも丁寧に教えていただけたので安心して任せられました。もちろん決断して実行するのは自分ですが、一人では思いつかないアイデアや調べきれない情報をたくさんいただいたからこそ、想像以上の仕上がりの部屋になったと思います。内装に関しても私は大きな希望だけ伝えて、細かい仕様は齋藤さんにお任せ。だから、もし女性の一人暮らしでリノベを考えている方がいたら「大丈夫ですよ!」と強く主張したいですね。
齋藤:細部まで具体的なイメージをお持ちの方いらっしゃいますが、H様は主なご要望がありそれ以外はお任せ頂きましたね。それで、私からご提案しながら計画を進めていきましたね。
H様:「委ねること」と「リクエストしたいこと」のバランスが良かったように思います。急かされず、押しが強くないところも私には良かったです。
内装にはどのようなリクエストをされましたか?
H様:明るい部屋にしたいとお伝えしました。以前は角部屋で窓も多いのに、暗かったんです。今のクローゼットは、元は寝室でしたが、断熱がほとんどされていないせいで冬は寒いし、夏はエアコンの風が直撃して寒かったのも悩みでしたね。デザインでは、シンプルで明るいトーン、寝室をガラスで仕切りたいこと、どこか一面に色を使いたいことをリクエストしました。
▷インナーテラスはお仕事でSNSに投稿するための撮影スタジオとしても活躍。ブルーの壁にビタミンカラーのアレンジメントが映えます。
寝室、玄関、ダイニング、インナーテラス…ブルーの壁が効いていますね。
H様:ブルーが好きなのでアクセントにしたくて。たくさん色見本を見せていただき、悩みに悩んで選びました。小さなカラーチャートで見ていた時はいい色だと思っても、少し大きなサンプルで見ると「私、こんな色選びましたっけ?」と思うくらいイメージが違ったりして(笑)。最終的には直感と、私がお仕事でお世話になっている先生にもアドバイスをもらって、オリジナルで調色してもらった色にしました。
先生というのはフラワーデザイナーさんなのですよね?
H様:はい。オランダ人の女性で、オランダスタイルのフラワーアレンジメントのスクールを開いていて、私もそこで働いています。色彩感覚は先生からの影響が大きいかもしれません。ディック・ブルーナも好きで、彼のシンプルな色合わせや色彩のバランスも部屋づくりにインスピレーションを与えてもらっています。
お部屋にあるお花やグリーンと壁色の相性もいいですね。
H様:ブルーを選んだのは、先生の作る作品にオレンジ、赤、黄、グリーンが多いので、背景として映えると思ったのもあります。インナーテラスにカウンターを設けてもらったので、簡易的な撮影スタジオとしても活用しています。窓際から光がきれいに差し込むので、先生と一緒にSNS用の写真や動画を撮ることもありますし、スクールで作った作品をここに飾ることも多いです。
インナーテラスはタイル貼りになっているんですね。
H様:タイルにしたのは齋藤さんのアイデアです。私はリビングから続けて全部フローリングでもいいかなと思っていましたが、水を使うことも多いし、ゾーニングされるのでタイルにしてよかったですね。天井から下げたバーも、吊るすタイプのフラワーデザインを飾ったり、洗濯物を干したりと何かと便利で気に入っています。
齋藤:バルコニーへの出入りはここの窓がメインとなるので、他のエリアとは少し切り替えて、半屋外の様子があった方が良いなと思いました。サンダルも気軽に置けますし。
家具の色使いもアクセントになっていて素敵です。
▷日本フクラのソファはリビングの主役。もたれた時に頭までおさまる高い背面がくつろげるポイントです。
H様:家具と家電はほぼ全て新調しました。といってもベッドもソファも家電も20年くらい使っていたので替え時だったんです。面倒くさがりなので「変えなきゃ」と思ってもなかなか変えられず、リノベがいいタイミングになりました。
なるほど。ちょっと気になったのですが、椅子とテーブルは高さが低いんですね。
H様:スクールのアトリエで使っている、座面が広くて低い椅子がとても使いやすいので、高さはこだわりました。テーブルと椅子は齋藤さんに紹介してもらった吉祥寺にある無垢家具のSOLIWOOD PRODUCTSで。あとから購入した椅子はInstagramで見かけたミナペルホネンのファブリックに一目惚れして宮崎椅子製作所のものを愛知県安城市にある「Soup. Life Store」というお店でオーダーしました。通常の椅子よりも座高が低いので、足が床にぴったりと着いて肩の位置も楽ですよ。食事も仕事もこのテーブルを使おうと考えていたので、体への負担が少ないことを重視しました。以前の部屋ではパソコン用のデスクがありましたが、物をたくさん置いてごちゃごちゃしていたので、ワークデスクとテーブルを一つにしたことで、全体がすっきりしたと思います。
▷モノを出しっぱなしにするのを避けるためあえてダイニングテーブルで仕事をされています。
長く住まわれていた分、モノを処分されるのも大変だったのでは?
H様:本当に大変でした!開かずの間のような押入れがあって、仮住まいへの引っ越しの際に開けてみたら、いろいろなものが出てきました(笑)。物を処分するタイミングは、「仮住まいへの引っ越し」「仮住まい中」「リノベ後引っ越してから」と3回あって、最初は一つ一つ吟味して処分していましたが、後半は「時間がない、もう捨てよう!」と、どんどん大胆になっていきました。大事にしていても、もう二度と使わない物は思い切って処分しましたね。リノベ後ここに越した時は、ウォークインクローゼットに収まらない物は処分して、今も物を増やさないようには気をつけています。
仮住まいのお部屋はどうやって探されたんですか?
H様:短期の仮住まいとして適しているということで齋藤さんからURを薦めてもらい、ここから歩いて行ける距離の部屋を借りました。家賃は少し高かったのですが、新居に持っていく荷物も保管できたのでよかったです。
▷同じブルーの壁でも光の当たり方で雰囲気が一変。お気に入りというゴッホのポスターとも相性ぴったりです。
20年ぶりの異なる住まい。何か心境の変化はありましたか?
H様:かなりありました!築浅のUR賃貸マンションだったので、新しい機能や設備を体感できたのが大きかったです。11〜3月と寒い時期に住んでいたのですが、断熱材が施されていて床暖房も付いていたので、今の部屋より広いのにエアコンがいらないくらい暖かくてびっくりしました。それまでは断熱を強化することに迷っていましたが「あれだけ暖かいなら、見た目をきれいにするだけではなくて、見えないところもちゃんとしよう」と思うようになりましたね。実際にこの部屋を取り壊して中を見てみると、天井に少し断熱材が入っていただけで壁は何もしていなかったので、壁にも断熱をして、窓も全て二重サッシを設置することにしました。
齋藤:断熱材は、性能の高いフェノールフォームをお勧めしました。断熱材が貼られてから現場へ行くとクローゼットエリアの寒さも緩和されていたことを思い出しました。
▷インナーサッシによって断熱効果と防音性がUP。取材中もまったく外の音が気になりませんでした。
二重サッシだと外の音もほとんど聞こえずとても静かですね。
H様:そうなんです。昔はよく部屋で音楽を聴いていましたが、今は静かな空間でゆっくりと過ごすことが多いです。窓の多い部屋なので、夏の暑さもインナーサッシがあると全然違いますね。この部屋を購入した20年前で住宅設備の情報や知識が止まっていましたが、すごく便利になっていることを学びました。
実際に使い勝手を体感できる機会って貴重ですよね。
H様:お風呂がしゃべることにも感動しました。「お風呂を沸かします」「よろしくお願いします」って毎日会話していましたよ(笑)。お風呂はシンプルでいいと思っていましたが、追い焚きや浴室乾燥機能の付いたお風呂に変えてもらいました。洗濯物はリビングのバーにも干しますが、梅雨時のリビングに洗濯物があると余計にジメジメした気分になるので、浴室にも干せるのは便利です。色や形などデザイン面に目が行きがちでしたが、仮住まいをきっかけに見えない部分や設備についても考えるようになりました。
▷白のシンク、水栓の形、木目の雰囲気をリクエストした造作のキッチン。使いやすくなってお料理をすることが増えたそうです。
他に機能や設備面でこだわったところはありますか?
H様:キッチンの足元の扉はなるべく引き出し式にしました。これから年を重ねていくと、かがんで観音開きの扉を開け閉めするのが億劫になりそうで。掃除がしやすいように部屋全体の段差も少なくしてもらっていますね。
▷キッチンの収納はできるかぎり引き出し式にされました。フライパンを立てて収納できるところもお気に入りだそうです。ー将来のことも見据えていらしたんですね。
▷洗面台は造作。トイレと浴室の手すりはURでの仮住まい時に良さを体感し追加で取り付けられました。
H様:そうですね。トイレと浴室には手すりをつけました。手すりも仮住まいで体感してあったほうがいいと思ったことのひとつでした。新築に憧れたこともありますが、こういう細かいところまで本当に自分好みに作ってもらえるところがリノベの良さですよね。それと、ふだんは洗面所の引戸は開け放しているんです。そうするとエアコンの風が通って、トイレや洗面室も涼しく暖かいのも快適です。
▷WIC。2つある入り口のうち、解体後に設けることにした入り口側には洋服を収納。エアコンは真夏に花を保管する際にも役立つといいます。
▷エアコンの配管のためにつくったニッチにはお気に入りの雑貨などを並べて。上段の日本画は画家であるご友人が描き下ろしてくれたそうです。
回り込めるウォークインクローゼットはいかがですか?
H様:最初、出入口は玄関側だけに付ける予定でしたが、解体して壁が撤去できることがわかって、齋藤さんから2箇所に出入口を設けることを提案されました。スペース的にもったいない気もしましたが、やってみると動線がショートカットできるし、ウォークインクローゼットの窓から光が入るので玄関や廊下も明るくなるし、すごく使い勝手がいいです。
齋藤:H様は収納量が減ることも気にされていましたが、通路が広がり明るくなることや、洋服収納エリアへ回り込まずにアクセスできることの方が良いと思いました。収納量と同じくらい使いやすさは重要ですしね。
ウォークインクローゼットにエアコンが付いているんですね。
H様:これは以前から付いているものです。リビングダイニングには、新たに小型の天井に埋め込むタイプの小型エアコンを2台付けました。配管のために壁をふかさないといけなかったのですが、それを利用してニッチをつくる提案がありましたが、これもやってよかったですね。エアコンの風は寒くて眠れないので、寝室にはあえてエアコンをつけていません。代わりにパーテーションの窓を開けておけば、リビングから寝室に適度に風が吹き抜けるので気持ちよく眠れます。キッチンでお料理をする時は窓を閉めておけば匂いが回らないし、大きなワンルームのような間取りですが、ゆるやかに仕切ることで生活がしやすくなりました。
▷ダイニングのテーブルと椅子はあえて低い物をオーダー。座らせていただくと「肩や脚が楽」というのが納得でした。
最後にリノベを考えている方にアドバイスってありますか?
H様:アドバイスと言えるかわかりませんが、私は本当にやってよかったなと思っています。断熱や空気の流れなど見えない部分が変わると、暮らしが本当に快適になります。うちも外から見ると古いマンションですが、中に入るとまったく雰囲気が違うので、遊びに来た友人も皆びっくりしています。見た目も中身も新しくなったので、これからもこの快適な状態をキープできるように、物を増やさないように気をつけて暮らします(笑)。
軽やかでシンプルな空間の中に、フラワーデザインで磨かれた色彩感覚が光る色使いの家具や小物が映えるH様邸。デザインにもきっと強いこだわりをお持ちかと思いきや、どちからというと使い勝手や設備面を重視されていらっしゃるのは意外でした。10年、20年先もこの心地いいお部屋でいきいきと暮らすH様の姿が想像でき、「大人のリノベーション」を考えるにあたって大切なポイントを教えていただいた訪問でした。
洗面台のタイルは大好きなディック・ブルーナの色使いやモチーフを参考にしたそうです。
天井の埋め込み式のライトは、古いホールやホテルのホワイエなどで使われる照明を参考にランダムに配置しています。
以前は光が入らず暗かった廊下も一新。万が一、将来車椅子に乗って生活しても通りやすい幅にしたそうです。
ウォークインクローゼットや洗面室の入り口は引き戸にしたことで掃除がしやすく開け閉めも楽だそうです。
ソファでくつろぎながらフラワーアレンジメントのアイデアを練ることも多いそうです。居心地が良くてついお昼寝してしまうこともあるとか。
バーやピクチャーレールに観葉植物やリースを下げて。丸いリースは大きな刺繍枠をベースにしたオリジナルです。
リビングダイニングの床材はアッシュのホワイト塗装。たっぷりと光の差し込む室内をいっそう明るく引き立てていいます。
カーテンはつけず全て調光スクリーン。開放感と陽の光を愛するオランダ人の先生の影響で、窓はできるかぎり開けていたいそうです。
リビングと寝室の間はガラスと木のパーテーションでゆるやかにゾーニングしました。窓を開け閉めできるので通気性も◎
フラワーアレンジメントの際に水を使っても掃除がしやすいようインナーテラスはタイル貼りとしています。
犬がお好きとのことで犬モチーフの雑貨がさりげなくあちらこちらに置かれています。
インナーテラスはお仕事用SNS用の撮影スタジオとしても活躍。ブルーの壁にビタミンカラーのアレンジメントが映えます。
玄関を抜けるとWICへと通じます。2つある入り口の内、こちらの入り口側にはフラワーアレンジメントの道具や掃除用具を収納しています。
廊下とリビングの間には扉がなく玄関ホールにだけ設けました。(※この画像はWICへの入口)。外廊下の声が遮断され室内がいっそう静かに。
テーブル上の照明はテーブルサイズにあわせて設計の齋藤がデザインしたもの。「これもかなりおすすめポイント」と、お気に入りなのだそう。
洗面台には、収納付き鏡と、台下のオープンな棚を併用。